厚生労働省のデータによると、令和4年度に総合労働相談コーナー(全国379ヶ所)に寄せられた相談件数相談は約125万件となっており、そのうち約7万件が「いじめ・嫌がらせ」となっていることから、多くの人が職場の人間関係で悩んでいることが伺えます。
そこで今回は、職場いじめやパワハラで苦しんでいる人を対象に、退職時に使える対処法を解説し、「逃げるが勝ち」という提案をしていきます。
職場いじめで退職したい人がやるべきこと
今後あなたが損をしないためにも、退職前にやるべき対策を確認しておきましょう。
一見、退職するまでの手続きが面倒だな…と思うかもしれませんが、計画的に少しずつ実行して、一日でも早く職場いじめの被害から抜け出してください。
物的意思表示をする
会社に対して、事前に退職意思を証拠として残しておきましょう。
もし会社側が急に「退職は受け入れられない」と言ってきても、あなたの意思(過去の行動)が証明できれば、法律上の争訴においても有利になります。
退職意思を残す具体的な方法として、
- 人事部や上司宛にメールを送って履歴を残す
- 会社に退職届を「配達証明付き内容証明郵便」で送る
などが有効です。
請求金額を計算しておく
場合によっては、退職後に残業代や損害賠償を請求できるケースがありますので、事前に自分でいくら請求するか費用計算しておくと良いでしょう。
ちなみに、未払残業代は、以下の計算式を用いて計算できます。
ステップ1:割増賃金の単価を出す
割増賃金の単価 =(基本給+諸手当)÷1ヶ月の所定労働時間×割増率
ステップ2:割増賃金の単価に残業時間をかける
未払残業代 = 残業代をもらっていない時間(2年以内分)× 割増賃金の単価(下記の表参照)
項目 | 賃金割増率 |
---|---|
時間外労働A(法定労働時間を超えた場合) | 25%割増 |
時間外労働B(1ヶ月60時間を超えた場合) | 50%割増 |
深夜労働(午後10時~午前5時) | 25%割増 |
休日労働 | 35%割増 |
時間外労働A+深夜労働 | 50%割増 |
時間外労働B+深夜労働 | 75%割増 |
休日労働+深夜労働 | 60%割増 |
参考:厚生労働省
なお、 正確な金額は、会社の就業規則や労働契約書と照らし合わせながら計算することになります。
社会保険給付金を申請する
社会保険給付金とは、退職後にもらえる雇用保険や健康保険の給付金のことで、職場でのいじめが原因で休職中の場合は「傷病手当金」が受給できます。
傷病手当金とは、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するための手当です。
受給される条件は、以下のとおり。
- 傷病手当金が出る勤務先の健康保険に加入済み
- 職場のいじめ(パワハラ・モラハラ・セクハラを含む)が原因
- 連続3日間以上、仕事ができていない
- 休職期間中、給与が支払われていない
特定受給資格者の認定を受ける
社内でのいじめが原因で退職する場合は、ハローワークで「特定受給資格者」の認定が受けられます。
特定受給資格とは、解雇処分などの事情で退職した場合、最短7日間で失業保険が受給できるものです。
職場いじめが過度で「やむを得ない」と認めてもらえれば、通常より失業保険受給タイミングが早まるなど、手厚い条件で失業保険の給付が受けられます。
証拠を残す
証拠がないのに一方的に会社を批判すると、あなたが営業妨害や誹謗中傷で訴えられかねないので、必ず証拠を残しておきましょう。
証拠としては、
- 写真
- 動画
- メール
- 日記
- 電話の音声録音
- 壊された物
- 汚された物
など
法廷などの外部機関に申し出たい場合、上記のような証拠が複数あると勝訴する確率が上がります。証拠を揃えて、訴えたもの勝ちです。
ハッキリした言葉で拒否する
退職間際までしつこいいじめが続く場合は、
- 堂々とした態度で
- ハッキリとした言葉で
相手を拒否してください。
ハッキリとした言葉の一例は、
- 嫌です
- やめてください
- 不愉快です
- 暴力は犯罪です
などです。
強めの言葉を相手に言い放つことは勇気が要りますし、その後の仕返しが怖くなりますが、大人しいタイプの人が我慢しているだけでは何も変わりません。
退職取消はしない
一度退職を決めたら、退職を取り止めないことが大切です。
社内いじめをする人たちは退職予定者をうらやましく思い、いじめのレベルがエスカレートしたり、逆に退職を引き留めようと優しくなってきたりするかもしれません。
しかし、ここで空気を読んで退職を撤回すれば、いじめる人たちの思うツボ。
あなたが目指すべきは、いじめがなく自分らしく仕事ができる新たな職場です。明るい将来のことだけを考え、退職手続きを進めましょう。
面接向けの退職理由を考える
会社には「職場いじめが原因ですぐ辞めたい」ことを伝えても良いのですが、転職時のことを考慮して、面接では表向きの理由を告げておくと無難です。
あなた=「職場の人間関係が原因ですぐに辞めてしまう人」というレッテルを貼られないために、以下のような前向きな理由を考えておきましょう。
- キャリアアップしたいので
- より専門性を高めたいので
- 以前から夢だった〇〇に挑戦したいので
- これまでの経験を活かして、新たな環境で自分の力を試したいので
など
相談先ごとの注意点を頭に入れておく
職場でいじめを受けたら、一人で悩まず誰かに相談してください。
相談先は、下記のように複数(無料・有料)あります。
- 上司
- 管理職
- 人事部
- 会社の相談窓口
- 労働局
- 外部の専門機関
- 弁護士
など
ただし、上記に相談するのは良いですが、各相談先に注意点があることも事前に理解しておきましょう。
例えば、相談先の例と注意点は以下のとおり。
- 相談先1上司の上司加害者のお気に入りだった場合、加害者の見方をされる可能性がある
- 相談先2社内の相談窓口ハラスメント防止に消極的な会社の場合、労働問題やいじめに対する認識が甘く、何も解決しないことがある
- 相談先3労働局事実確認や回答に時間がかかり、いじめが暴行などの刑法に結びつかない場合、労働基準監督署では責任を追及できないことがある
早期退職募集があるか確認する
Yahoo!知恵袋の投稿などを見てみると、職場内いじめを受けていた人が早期退職募集に出願してスムーズに退職したケースも見受けられます。
早期退職制度を利用すれば、
- 「会社都合」による退職
- 退職金額が増える
- 自由なキャリア形成のチャンス
などといったメリットも期待できますので、いじめが理由だとしても自己都合にしたくない人は、早期退職募集がないか確認してみると良いでしょう。
職場いじめで退職したほうが良い理由
いじめが横行している職場に居続けても、おそらく何も改善しません。精神的にダメージが大きくなる前に、逃げるが勝ちです。
ここでは、その根拠を解説します。
人間不信に陥る
いじめて退職に追い込むような人が複数いる職場は、まさに四面楚歌。周囲との信頼関係は築かれず、人間不信になって当然です。
他人を信じられない心理状態では、人から評価されたり褒められても「どうせ嘘だろう」「裏があるのでは?」と否定的にもなるでしょうし、仕事の生産性や質も落ちてしまいます。
さらに人間不信が続くと、
- 社交不安障害
- 妄想性パーソナリティー障害
- PTSD
などのメンタル障害を発症するなど、心身ともに苦しむことになります。
仕事に支障をきたす
「会社に行きたくない」「嫌だな」と思いながら職場に行っても、良い仕事はできません。不安や恐怖心から不眠になり、心身のコンディションが万全でなければ仕事に支障をきたして当然です。
いじめがある職場では、
- 職場内の報連相が実行されない
- 必要書類やメールが届かない
- 人に依頼すべき業務が滞る
などの問題が日常化してきます。
職場間のコミュニケーションが潤滑しなくなり、やるべき仕事が遂行されず課題解決に時間がかかるでしょう。その結果、クライアントや取引顧客にまで迷惑をかけてしまうことも。
職場いじめや人間関係のトラブルは、外部からの信用までも失うリスクを孕んでいると言えるのです。
いじめがエスカレートする
どこかで誰かが一石を投じなければ、いじめがエスカレートしていく可能性があります。
いじめのエスカレートといえば、アメリカのスタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルド教授による「監獄実験」が有名です。
模擬刑務所の「看守役」と「囚人役」に分けた実験で、看守役の人がどんどん残酷になり、その行為を楽しむようになりました。
実験は2週間の予定で始められましたが、結局6日間で中止されたほど、残虐的な行為はエスカレートしていったのです。
「このまま耐えればいつかは終わる」と思って職場いじめの悔しい気持ちを我慢せず、今の過酷な環境から早めに逃げることをおすすめします。
相手に常識は通用しない
いじめる人は、かなり心(視野)が狭くなっているので、いわゆる「普通の常識」は通用しません。心が健常な人であれば、他人を攻撃してしまったときは罪悪感を抱くものです。
しかし、いじめる人は、
- 普通の感情が分からないから、平気で他人を傷つける
- 弱い者を威圧して、優越的な立場に立ちたい
- 自分のうっぷんを晴らしたい
だけの残念な人間です。そんな(異常な)相手とまともに向き合おうとすると、こちらが疲弊するだけです。
職場いじめによくあるパターン
ブラック企業で長年働いているうちに、徐々に感覚が麻痺してしまい、陰口(悪口)を言われてもパワハラやいじめだと判断できなくなるのは危険です。
ここでは、職場いじめのよくある典型的なパターンを確認しておきましょう。
ミスを過剰に追い詰める
ミスや遅刻に対して注意・指導を受けることは当たり前のことですが、従業員が精神的に病むほど過剰に追い詰める行為は、職場いじめの可能性があります。
以下(一例)は、相手の感情を無視した残虐行為と言えるでしょう。
- 人格を否定・侮辱するような言動
- 精神的に攻撃する暴言
- いつまでも続く叱責
過去には、上司による過剰な追い詰めが原因で従業員が心労で働けななくなり、慰謝料の支払いが命じられた裁判例もあります。
業務から外される
下記のような行為も職場いじめの定番です。
- 自分の専門業務から外される
- 職務と無関係の雑用を毎日やらされる
- ほかの社員と比較して仕事量が極端に少ない
- 女性であることを理由にプロジェクトから外される
など
これでは、職場での存在意義を見いだせなくなって当然です。
理不尽な妨害
上司や同僚から、以下のような理不尽な妨害を与えられることもあります。
- 仕事で必要な情報や資料を与えられない
- 上司が誤って指示したのに、自分が始末書を書かされる
- 失敗したら責任を負わされ、成功したら手柄を横取りされる
- 他の人のミスなのに、濡れ衣を着せられる
- 事実無根の悪い噂を流される
など
休みを取らせてもらえない
突然の体調不良や急用などで欠勤せざるを得ない状況もありますが、同調圧力などで会社を休ませてもらえないケースも職場いじめにあたります。
有給休暇を取らせないのは違法行為ですので、程度によっては民事責任や刑事責任を追及できる場合もあります。
過大な責任を押し付けられる
厚生労働省の資料にも明記されているとおり、到底対応できないレベルの業績目標を課してくる場合も、職場いじめの一種といえます。
ポイントは、
- 会社の生産性に関係ない不要なこと
- 遂行不可能なこと
を要求することです。
一人の従業員が頑張ったところで目標を達成させることは難しく、肉体的・精神的に追い込まれます。
職場いじめによる退職は計画的な対応が大事
いじめやハラスメントが平然と行われる会社は、風通しの悪いブラック企業である可能性もあります。
一人の力ではどうにもならないことも多くあり、職場でいじめや嫌がらせを受けているなら、我慢せず計画的に対処(退社・転職など)することが重要です。
ネット上に掲載されている転職サイト・法律事務所のサイトなどでは、精神科医が監修したコラムも掲載されており、多数のアドバイスが無料で閲覧できますので参考にするのも良いでしょう。