刑務官という職業は、社会的な責任が重いだけでなく、精神的なプレッシャーも大きい職業の一つと言えるでしょう。
それは、刑務所の安全管理だけでなく、受刑者たちと向き合い続けるという困難な状況が原因にあります。
そんな刑務官を辞める人が続出する理由を一緒に見ていきましょう。
刑務官を辞めたい人が続出する理由
厚生労働省の調査では、一般的な職業の離職理由は労働条件の悪さや仕事の内容、賃金の安さがトップ3を占めています。
これに対し、刑務官を辞める人の多くは人間関係を挙げています。
具体的にどのような理由で辞めたいと感じているのか、ひとつずつ見ていきましょう。
厳し過ぎる上下関係
刑務所にいる受刑者を統制するには、刑務官は時に強い言動によって抑圧する必要があります。おのずと受刑者と刑務官の間に上下関係が生まれやすい状況ですが、それは刑務官同士でも起こります。
国家公務員は年功序列を敷いた組織であるため、当然ながら長く勤務している年上ほど強い力を持ち、新人にとって上長の命令は絶対。単に上下関係が厳しいというものではなく、発言する権利すらない状況です。
パワハラが横行していることも
刑務官の中には、、武道拝命制度によって刑務官になっている剣道や柔道の有段者もいますが、こうした人たちのなかには武道ができない人を見下して、笑い者にするケースもあります。
パワハラが横行している刑務所もあり、世間とは常識が違う世界なのが実情。
仕事が終わって帰ろうと思ったら、強引に武道訓練に参加させられた上にしごかれるなどやりたい放題の状況では、いくら志を高く持って刑務官になった人でも挫折してしまうでしょう。
刑務官を演じなければならない
受刑者の前で常に冷静に、毅然とした態度をとり続けなければいけない状況や、時には高圧的にもならざるを得ないことに耐えられなくなるケースがあります。
特に女性は男性よりも精神的にナイーブな人が多いので、こうした環境に耐えきれなくなり、辞めてしまう人は多いです。
受刑者の管理でストレスが溜まる
刑務官は、刑務所内の秩序を維持するため、常に受刑者に対して目を配らなくてはいけません。決められた作業をきちんと行い、資格取得に真面目に取り組む受刑者ばかりではなく、時には刑務官やほかの受刑者とトラブルを起こす人もいるでしょう。
こうしたとき、刑務官は毅然とした態度で受刑者に対応しなくてはいけません。常に緊張状態であり、寿命を削る仕事といっても過言ではありません。
性格が優しい人であれば、受刑者に対して高圧的な態度をとる自分にもストレスを感じるでしょう。
研修期間が過酷
刑務官に拝命(採用)されると、初等科研修と呼ばれる新人研修を受けます。
初等科研修は、約5ヶ月半の自庁研修と約2ヵ月半の集合研修の2つがあり、合計で約8か月間。集合研修では各矯正管区にある矯正研修所にて合宿を行うため、同期の研修員と24時間いつも顔を合わせます。
このように初等科研修は研修期間がとても長く、朝起きてから寝るまでのスケジュールが決まっています。土日祝は休みですが、無断外出などは禁止。
そのため、初等科研修を実際に受けた人は「まるで軍隊のようだった」「受刑者の気分だった」と感じています。
辞めたいを連呼しつつ、もうすぐ半年。まだ刑務官続けるのかな? 研修が乗り越えられるか不安……研修何ヶ月間かな
— megu1012 (@chip1012fish) November 22, 2015
研修内容は刑務官として勤務するために必要や法令を実務を始め、矯正護身術の練習、心理学など、これまで学校で習ってきた範囲とは異なる上、毎日レポートの提出が必須。レポートの内容は先輩にチェックされ、何度もダメ出しされたり評価が悪ければ精神的なプレッシャーがかかり、研修中から辛くて辞めたいと思う人も少なくありません。
一方で、刑務官になると初等科研修が楽すぎたと感じる人もいます。初等科研修の時点でつらい、辞めたいと思っている人は、刑務官になっても長続きしない可能性は高いでしょう。
女子刑務官は人間関係が特に過酷
法務省の発表によると、2012年からの3年間で3年以内に辞めた女性刑務官は全体の37.7%。女性刑務官の4割近くが採用されて3年以内に辞めており、離職率が男性刑務官の2.5倍となっています。
女性刑務官の離職理由には結婚(寿退社)もありますが、職場で先輩職員から冷遇されたり、仕事を教えてもらえなかったなど、いじめのようなことをされて辞めていく人がたくさんいます。
肉体的疲弊
刑務所は会社のように営業時間が決まっていないので、24時間365日、ずっと受刑者たちを管理しなければいけません。
そのため、夜勤があり、新人は夜勤班に配属されるのが一般的。勤務時間は8時間ですが、刑務所内でトラブルがあればその処理に追われたり、上司に提出する報告書を作成するなど、勤務時間が過ぎても残業があるのは企業と変わりません。
夜勤中は仮眠時間が設けられているものの、働いている環境もあり、ぐっすりと寝られるタイミングはほとんどありません。
ようやく夜勤が終わり、自宅や宿舎に戻ってゆっくりと寝ようと思っても、先輩や上司から武道訓練に参加するよう命じられれば、背くわけにもいかないのが刑務官。
安らげる時間がない
刑務官は体育会系の体質が組織全体にあり、飲み会も頻繁にあります。
こうした状況では、いくら若くても体に疲労が蓄積してしまい、刑務官を辞めたいと思う人が出てきても不思議ではありません。
同じ状況を先輩や上司が切り抜けてきているのだから、自分にもできるはず。
真面目な人ほどそう思ってしまうかもしれませんが、思うように睡眠がとれない毎日が続くと、やがて精神的にも大きな負担になり、心身のバランスを崩してしまいます。そうなればうつ病などの発症の原因になりかねません。
一度、健康を害してしまったら、そこから元に戻るまでには途方もない時間がかかります。体調に異変を感じたら、早めに退職を考えましょう。
刑務官はネットでも話題になる程過酷な仕事
なんjや5chなどの掲示板サイトには、度々刑務官の過酷さをアピールするスレッドが立っています。
特に目立つのは、職員に対する辛辣な本音。
仕事そのものが辛いという声よりも、人間関係の悪さを訴えるものが圧倒的に多いです。
適応障害になる
刑務官として息子さんが就職すると決まったとき、きっと親として誇らしい気持ちだったのではないでしょうか。
息子さんもそんな親御さんの気持ちを汲み取り、体調が悪くても無理をして働き続けてしまったのかもしれません。結果として、適応障害になるほど追い詰められてしまいました。
華の国家公務員は、蓋を開けてみたら仕事も人間関係も最悪で、逃げ場がない、まさに監獄のようなところだった。当事者の息子さんを始め、親御さんの心情を思うと言葉がありません。
心身に不調をきたした例もある
国家公務員である刑務官に就けただけでも素晴らしいこと。
まずは、辞めたいと思う自分を責めるのではなく、自分の良さに目を向けて少しでも気を楽に持ってほしいです。
その上で、残念ながら刑務官内の体質はこれからも変わる可能性はないでしょう。刑務官でい続ける限りは、こうした状況に慣れるしか生き抜く方法がありません。
それが無理だと思うなら、退職を検討しましょう。再就職は年齢が若いほど、数多くの求人から選べるので早めの決断がおすすめです。
刑務官を辞める順序
民間企業であれば退職の申し出は直属の上司に行いますが、刑務官の場合は少し違います。
刑務官は体育会系が多く、縦社会であるため、適切な順序を踏まえて上司に話したほうが円滑に事が運ぶからです。
一見煩わしい方法にも思えますが、実はこれこそが刑務官を退職する近道。
以下の知識を得ておけば、遠回りせずに刑務官を退職できます。
雑務の人に刑務官を辞めると伝える
刑務所施設で働くことを処遇といい、処遇には日勤と昼夜間勤務の2種類があります。
新人は昼夜勤を担当するケースが多く、刑務官の間では昼夜勤に就く人を夜勤班や夜勤組と呼んでいるので、ここでは夜勤班に務めていると前提し、退職報告の具体的な順番をご紹介しましょう。
まずは同じ夜勤班のなかでも、雑務の人に刑務官を辞めると伝えます。このとき、自分が退職する意思を伝えたのはあなたが最初だと分かってもらうために、「後日、夜勤監督に伝えるつもりです」と添えましょう。
いきなり夜勤監督に辞めたいと伝えてしまうと、雑務の人は嫌な気持ちになるので注意してください。
夜勤監督に辞めると伝える
続いて、夜勤監督に辞めたいと伝えます。ここでも「後日、配置主任に伝えるつもりです」といってください。
管轄を統括する上司に辞めると伝える
最終的には管轄を統括する上司に退職を伝えるのが一連の流れです。
退職を報告する相手が多くなると、その都度理由を話さなければならないため、面倒に感じるかもしれません。
しかし、こうした根回しこそが刑務官をスムーズに辞めるためには必要なのです。
これさえ守れば、上司に無理に引き止められるのは少なくなります。上司としても、部下(現場)が理由を聞いて既に納得済なのであればしかたないと思うのでしょう。
もちろんいきなり管轄の統括に退職の報告しても辞められますが、辞めるまでには苦心する可能性が高いです。
ご紹介した順番は、過去に刑務官を経験した人が実際に行って、「これが最も良い方法」としている辞め方ですので、できるだけトラブルを避けて辞めたい人は覚えておくと良いでしょう。
刑務官を辞める前に気を付けること
刑務官は辛い仕事である一方、魅力的な部分も多々あります。
悪い面だけでなく良い面にも目を向けて、刑務官を辞める前に振り返っておきたい部分を見ていきましょう。
収入面の待遇が良い
刑務官は同年齢の一般企業や地方公務員に比べて給料が高く、勤務年数が長くなると昇給も可能。
さらに家賃不要の官舎住まいで、年数回のボーナスなど、手厚い手当や福利厚生があります。
失業リスクが低い
受刑者がいる限り、刑務官の仕事はなくなりません。
刑務官を辞めるというのは、こうしたメリットを手放すということ。
住宅ローンを事前に組んでおく
刑務官は社会的信用が高いので家などのローンも通りやすく、安定した生活を望む人には魅力的な職種であるのは間違いありません。
一般企業では勤務年数や年収によってローンが通らない可能性があるので、家などを購入する場合は刑務官として働いている間に申請をしてしまうなど、立場を上手に利用しておくのも大切です。
刑務官を辞めるには報告する順番が大事
刑務官を辞めたいときは、下から上の順序で退職したい旨を報告してください。そのとき、前段階の人には既に報告済であると伝えると、スムーズに話が通りやすくなります。
早く辞めたいからといって部署の上司に最初に退職を報告してしまうと、なかなか辞めさせてもらえず、結局は長い時間がかかってしまうので注意してください。
日本の受刑者の数は、2006年の3万3,032人から2016年は2万467人まで減少しています。しかし、刑務官の数は足りていません。
高卒で入職できる国家公務員として魅力的な部分が多い刑務官ですが、内情は離職率が高く、精神を病む人も少なくないため、就職先に選ぶ場合はより多くの情報を集め、本当に自分にできるかしっかりと検討してみましょう。